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ニッポン風めぐり紀行

各種旅行記、バイクツーリング、乗りものレポ、老舗旅館や街道探訪など、『旅に生きる日々』を綴るブログです。

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宿泊帳簿78.野田村 苫屋

今回の活動の舞台を東北としたのは、「苫屋」へ宿泊したいという思いがきっかけでした。宿はテレビもなく通信会社によっては携帯も通じない。さらにHPも電話もないので予約は手紙のやりとりでのみ行うという今の時代では異色の宿です。かつて郵便の仕事に携わった者として、日々手紙を通じて人との交流を重ねている宿に一度宿泊してみたいという思いが湧き、連休明けに手紙を差し出したところ、宿主の奥様の丁寧な字で返信があり、本日の宿泊と相成りました。




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野田村の山間部にある苫屋。「南部曲がり屋茅葺き民家」の宿です。岩手県の伝統的家屋に宿泊できるのは貴重な経験です。当初電話もなく携帯の電波も入らない場所と聞いていてそれ故に郵便という手段を利用しているのだと解釈し、さぞかし人里離れた山奥だろうと推察していたのですが、実際には何処の地域にもある山間集落の一角にあり決して生活に不便な辺鄙な場所ではありません。人里離れた辺鄙さを期待して向かうと少々がっかりするかもしれません。






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夕方に到着して早速部屋に通され荷物を降ろし、囲炉裏端でお茶をいただきながら暫しの間歓談しました。苫屋を営むS夫妻はかつては世界を旅してきた旅人だそうで、出身は大阪ですが縁あって野田村の地に暮らし始めたそうです。髭面で穏やかな語り口調のご主人と晩の料理の準備をしながら時折手を停めて会話に混ざってくる活発で器用な奥様で外見もどことなく旅人的な風貌を感じます。テレビもなく電話もないのは常に人と繋がっていることの息苦しさと氾濫する情報から距離を置きたいという宿主夫妻の生活信条によるところが大きく、設置しようと思えば設置可能でドコモに関してはスマホの電波も普通に入りました。煙で燻されて黒くなった柱や天井の梁や床板が独特の空間を作り出す囲炉裏端、その隣には昼間営業のカフェにも使われている畳の間。この2箇所が店主や旅人との交流を楽しむ交流空間です。囲炉裏の炭火の音と宿主の嗜好なのか外国音楽やヒーリング音楽が流れるなかで柱時計が時を刻みます。





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夕食の準備の間に先に風呂に入らせてもらったのですが、その間にもう一組の宿泊客が到着していました。青森の新郷村にキリストの墓を訪ねてきたという東京からの一人旅の男性で、私よりもやや年上のように感じました。入れ替わりで彼が風呂に入っている間に宿の周辺を散歩しに出かけましたが、宿のすぐそばを小さな川が流れていて、道路際から川辺に降りられるようになっているのです。そして川べりには鍋や笊やブラシといった生活用具が常備してあり、おそらくここで日常的に食器や野菜を洗ったりされているのかもしれません。





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夕飯の献立は小松菜のお浸し・アスパラガスとたらこの和え物・煮物・冷奴・きんぴらごぼう。別料金ですが二階堂の水割りをお願いして4人で囲炉裏を囲んでいただきます。野菜や根菜はご夫婦が畑で作ったものを中心に揃え、これに加えて囲炉裏の薪炭で焼いたじゃがいもとまるごと一匹のおおぶり鰈がつきます。豊かな山海の幸を味わいながら酒を酌み交わし、囲炉裏の炎を見つめながら旅や人生など深い話もさせていただきました。

苫屋が手紙によるやりとりのみに拘るのは宿主夫妻の考えに因るところが大きいのですが、実際には毎日のように届く多くの手紙への返信に時間をとられ、時にそれは負担に感じることもあるそうです。宿泊後に感謝や御礼の手紙等で継続的な交流を続けている客はごく僅かで、予約のやり取りで終わる場合がほとんどだそうです。宿主夫妻の話を聞く限りでは、手紙への愛着とか拘りはあまりないように思われ、これは私の推察ですが「手紙でしか予約が取れない宿」として有名になったことでそのイメージを守ることに労力が費やされ、筆跡から相手の人柄を想像するとか相手に伝わる文面を考えるとかそういった余裕が失われているように感じました。もちろんそれは宿主夫妻の本望ではなく、理想とは異なる現実に疲弊されているのかもしれません。それでも折角訪ねてきた客をもてなそうとする姿勢は料理をはじめとしたもてなしで十分に伝わってきました。





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宿泊料金は決して安いわけではなく、一泊二食付+酒代で7,000円ほど支払ったと記憶しています。広い和室の個室は与えてもらえますがテレビはついておらず、周辺には飲食店や遊べる場所もありません。宿主夫妻との会話や伝統的民家の雰囲気を楽しめる人には良いと思いますが、そうでなければおそらく退屈してしまうでしょう。そもそもが手紙のやり取りで始まる宿ですから何も知らずに泊まる飛び込み客というのは少ないと思いますが、客側は宿の存在を知り手紙を出すまでにネットで色々と下調べをするはずです。その過程での客側のイメージや期待に対して実際がどうかという点で評価が分かれると思います。


<2018.6.30宿泊> 一泊二食付6,000円

苫屋
岩手県九戸郡野田村大字野田5-22
電話:なし
冬期休業(12月28日〜2月末日)


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| 18年6月/東北 | 22:06 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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